「うちの子、人見知りで…」
「前の先生とはほとんど話さなかったんです」
体験授業や面談で、こうお話しくださる保護者の方は少なくありません。
学校に行けなくなってから、人と話すこと自体にハードルを感じてしまうお子さんもいます。ましてや初対面の大人となれば、なおさらです。
そんなときに大切なのが、「この先生なら話しても大丈夫かも」と思える存在です。
無理に話さなくてもいい、けれど心の中では「もう少し聞いてほしい」と感じている――その気持ちをやわらかく受けとめてくれる先生は、お子さんの世界を少しずつ広げてくれます。
今回は、不登校の子にとって「話しやすい先生」がどんな意味を持ち、どんな特徴があるのかをご紹介していきます。
不登校の子が「話しやすい先生」を求める理由
不登校の背景は、お子さんによってさまざまです。
クラスでの人間関係、先生との相性、体調の不調、漠然とした不安…。
理由がひとつではなく、いくつもの出来事が重なっていることも多いです。
そうした経験を経て、大人に対して警戒心が強くなるお子さんは少なくありません。
学校でのやりとりがつらい記憶として残っていると、「どうせ話してもわかってもらえない」と感じてしまうことがあります。
だからこそ、勉強の指導に入る前に大切なのが**「安心できる相手」になること**です。
話しやすい先生は、成績や出席日数だけに目を向けるのではなく、まずはその子のペースを尊重します。
この安心感があると、少しずつ気持ちや考えを言葉にできるようになり、生活リズムの回復や学習への意欲にもつながっていきます。
話しやすい先生の特徴
話しやすい先生と聞くと、「優しい」「おだやか」といった印象を思い浮かべる方が多いかもしれません。
もちろんそれも大切ですが、不登校のお子さんの場合はもう一歩踏み込んだポイントがあります。
- 否定せずに最後まで話を聞く
途中で話を遮らず、「そうなんだね」とまず受けとめてくれる。これだけで心の壁が少し低くなります。 - 雑談や趣味の話から関係を築く
勉強の前に、好きなゲームやアニメの話をする。共通の話題があると安心感が生まれます。 - 無理に学校や勉強を急かさない
「来週から学校行こう!」ではなく、「今日はここまでやってみようか」と小さな一歩を提案します。 - 子どもの言葉をくり返して共感を示す
「それ、嫌だったんだね」「疲れちゃったんだね」と、気持ちをそのまま返してもらえると安心します。 - 話さない日があっても尊重する
無言の時間があっても焦らず、そっと寄り添える先生は信頼を失いません。
こうした関わり方が積み重なることで、「この先生には話してみようかな」という気持ちが少しずつ芽生えていきます。
実際のエピソード
初めて体験授業に来たAくんは、保護者の方の隣でうつむいたまま、ほとんど話をしませんでした。
質問をしても小さくうなずくだけ。机の上のペンをくるくる回しながら、じっと時間が過ぎるのを待っているようでした。
その日は、無理に勉強の話はせず、「好きな食べ物ってある?」と軽く聞いてみました。
返事はありませんでしたが、目が少し動いたのを見て、「じゃあ、先生はカレーが好きなんだ」と自分の話を続けました。
二回目の授業でも、まだ会話は少なめ。
けれど三回目の授業のとき、Aくんがふいに「昨日ハンバーグ食べた」と言ったのです。
そこから少しずつ、好きなゲームや休みの日の過ごし方の話が増え、やがて「ここがわからない」と勉強の質問もできるようになりました。
保護者の方は「家でも前より笑う時間が増えました」と話してくださいました。
Aくんにとって、先生は“勉強を教える人”である前に、“安心して話せる人”になっていたのです。
親ができる「話しやすさ」の後押し
話しやすい先生との出会いを、さらに良い関係に育てるためには、保護者のサポートも大切です。
ちょっとした工夫で、お子さんと先生の距離がぐっと縮まることがあります。
- 事前に好きなことや得意なことを共有する
「ゲームが好き」「犬を飼っている」など、授業以外の話題のきっかけになります。 - 授業後に感想を無理に聞かない
「どうだった?」と詰問調に聞くよりも、「お疲れさま」とだけ声をかける方が安心します。 - 要望や不安は子どもがいない場で伝える
子どもの前で先生への要望を伝えると、本人が気をつかってしまうことがあります。 - 初回や慣れるまでは同席してみる
知っている人がそばにいることで、お子さんは安心しやすくなります。 - 話さない日があっても焦らない
会話が少ない日も「今日は疲れていたのかな」くらいで見守ることが、信頼の積み重ねになります。
こうした後押しがあると、お子さんは「自分のペースで関係をつくっていいんだ」と感じられます。
その安心感が、先生との関係をより深くしていくのです。
話しやすい先生を見極める面談のポイント
体験授業や面談は、先生の人柄や接し方を見極める絶好の機会です。
「優しそう」という印象だけでなく、具体的なやり取りを観察することで、お子さんに合う先生かどうかがわかります。
- 子どもの話を最後まで聞いてくれるか
言葉を途中で遮らず、頷きながら耳を傾けているかを見ます。 - 緊張をほぐす質問をしてくれるか
「好きな食べ物は?」「休日は何してる?」など、答えやすい質問から入ってくれるか。 - 保護者への説明が一方的ではないか
説明ばかりで終わらず、こちらの話にもきちんと耳を傾けてくれるかを確認します。 - 子どもの表情に変化があるか
面談中、笑顔やうなずきが見られたら、少しずつ安心している証拠です。 - 「できること」と「できないこと」を正直に話してくれるか
無理に全部引き受けようとせず、現実的な対応を説明できる先生は信頼できます。
面談の時間は限られていますが、この短い時間でも先生の「聞く力」と「寄り添う姿勢」は感じ取れます。
そこで得た印象は、長いお付き合いの中でとても大きな意味を持ちます。
まとめ
不登校のお子さんにとって、「話しやすい先生」は勉強を教えてくれる人以上の存在です。
安心して気持ちを言葉にできる相手がいることで、自己肯定感が少しずつ戻り、生活や将来への意欲にもつながっていきます。
もちろん、初めから何でも話せるとは限りません。
けれど、否定せずに耳を傾けてくれる先生との時間は、お子さんの心をやわらかくほぐしてくれます。
先生との出会いは、ほんの小さなきっかけから始まります。
「この人となら話してみたい」と思える瞬間を大切に、お子さんにとって安心できる関係を少しずつ育んでいってください。

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